トレーニング・ニュートリション・ケア

 競技スポーツに携わる方にあらためて考えていただきたいと・・

 競技スポーツに必要な心技体。そのひとつの体、身体や体力。それを向上させるために運動・栄養・休養で、いいかえると、トレーニング・ニュートリション・ケア。

 またそれを担当する専門家のトレーナー。について・・

トレーニング

 スポーツのためのトレーニングときて、最初に浮かぶのがプロ野球有名選手の肉体改造ではないだろうか。専属トレーナーのもとトレーニングを行い、あの野球選手離れした肉体に改造した。身体があれだけ大きくなるには筋肥大のトレーニングを実施した結果であろう。はたしてあの肉体は野球選手にとってプラスなのだろうか。筋肥大し身体が大きくなると野球が上手くなるのか? などはここでは論じきれないので論じないが、トレーニングを実施するうえで考えねばならない点である。どのような身体にしたいのか、そのためには何の体力を向上させるべきなのか、という点である。どのような身体?そのスポーツが上手くなるため・・となるのだが、まずスポーツ選手に最も必要な身体とはケガをしない身体であり、それを最重要としてふまえたうえでスポーツの特性にあった身体を求めることとなる。体力とは様々な要素に分類され、柔軟性、筋力、瞬発力、敏捷性、持久力、平衡性、スピード他が挙げられ、それらはさらに細かく分類される。それの何をどのくらいどのように、と。

 トレーニングでは、まずスポーツ選手としての基礎的な身体を持たせること、体力を向上させることがベースとなる。それがなければ技術も向上しきれずケガも多くなる。しかしトレーニングをあまり実施していなかった選手が、なにかしらの要素のトレーニング、例えば筋力・ウエイトトレーニングを実施すれば、スポーツ選手とし基礎的な体力が向上するので最初のうちは必ずパフォーマンスが向上する。しかしそれが落とし穴。向上したからといってそのままトレーニングをしてゆくと他の体力要素とのバランス、そのスポーツの特異的な身体からはなれていってしまい、例えば、当たればボールは飛ぶのだが・・?になり、ケガが増え、本来その選手が独自で持つ身体特性能力にも陰り、何のためのトレーニング?になってしまうのだ。

 今一度、自分の関与する競技スポーツに大切な身体・体力を考えていただきたい。例えば、それがはたして高重量を求める筋力トレーニングなのだろうかと。

 肉体改造が成功しても、それがそのスポーツを向上させ続け行うための身体改造に成功したのかを。

 あえて言うならば、どのスポーツにもあてはまる最も重要な体力要素は、自動的な柔軟性であろう。

ニュートリション

 なぜここを、栄養とせずにニュートリションとしているか。

 スポーツを行うための身体、それを構成している物質は常に新陳代謝を繰り返している。身体物質自体はなにからできるのか、なにもないところからポッとできあがるのではない。練習によって運動神経ができるのでもなく、トレーニングによって筋肉ができるのでもなく、医者の治療によってケガの部分が再生するのでもない。全て口から摂取した栄養素によって身体はできているのある。スポーツ選手にとって、栄養はたいへん重要なものである。あれだけ身体を酷使して練習をするのだから一般人より身体は多く破壊される。

 正しい栄養を摂取するためには、正しい食事をしなければなれない。とは誰でも知っている。では正しい食事とは何か、栄養士が唱える「朝食はヒジキ・・昼食には・・牛乳を・・夕食は・・」は、これからスポーツを続けてゆく間、それを日々食べ続けなければならないのか、食事の好みはどうなるのか、誰がそれを適確に作るのか、食費がかかるが・・。現実をみれば無理なのである。正しい食事がベースとなるのはもちろんだが、それだけを唱えていてもスポーツ選手に必要な栄養を補うことはできない。サプリメントを使うことが必須である。プロテイン、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどの五大栄養素だけでも多くの種類のものが存在しており、その他スポーツに有効な栄養素は山ほどある。さらにそれらサプリメントを何を基準にしてどの商品を選ぶのかという知識も必要である。有名選手が使っている、有名メーカーだから、では・・。現在取る食事、使用するサプリメントが最も良いのか。もっと、栄養、サプリメントの知識をつけてほしい。そしてそれが単なる栄養学ではなく、理想ではなく現実で。アメリカはそれが大きく進んでいる。だから栄養ではなくニュートリションと呼ぶのである。

ケア

 スポーツ選手は必ずケガをする。しない者はいない。ただそれに大小があるだけである。ケガを直すのは、医師でもマッサージでも鍼でもトレーナーでも筋トレでもサプリメントでもない、人間の自然治癒力によって直るのである。自然治癒を最も効果的に起こさせるには休むことである。ケガを必ずするスポーツ選手には休養といったケアがとても重要である。休ませることには消極的な動かさないものだけではなく、積極的に行う休養も重要である。また、マッサージなどの他動的なものだけでなく、自動的な休養も重要である。ケガを防ぐ、減らす、早期に回復させるために身体のケアに対してもっと意識を持つべきである。日々の疲労物質の除去、ジョグ・ストレッチなど。身体物質の補給、適したサプリメントなど。たまにしか起きないケガだからと後回しにしないでそれをもっと確率を減らす、起きうるケガ本来起こるケガの程度より軽くする。それを自覚し積極的に自動的に身体のケアをするべきである。マッサージをすればコンディショニングが整いそれがケアだ。では大きく考えものである。

トレーナー

 選手の身体・体力をみるスタッフの専門家としてトレーナーという存在がいる。もちろんトレーナーを就かせられない現状も多い。しかし、選手にとって資本となる身体の分野。もっと力を入れるべきではないだろうか。まずはどのような頻度でもよいのでトレーナーを就かせるように努めることが大切であろう。しかしもっと肝心なことはそのトレーナーの能力のことである。

 トレーナーとは前記したように、様々な体力要素を考えた適確なトレーニング、様々な知識を必要とされるニュートリション、そして身体ケア、の専門家。その知識は多岐に渡り高い能力が求められる。トレーニングの中でも筋力トレーニングが専門、栄養でも食事メニュー作りが専門、ケアも他動的なマッサージなどが専門、などの人が専門でもない、敏捷性トレーニングを、専門でもないサプリメント指導を、専門でもないリハビリ指導をすることは選手のためならない。そのような、部分専門トレーナーに大切な身体全体を任せてはいけない。

そこで問題となるのはトレーナーを採用する立場の人である。ここで筆者は誤解をおそれずに述べさせていただきたいことがある。日本のトップスポーツ、プロ野球、プロサッカー(Jリーグ)、各種ナショナルチームなどの、それを担当するトレーナー(トレーニングコーチ類含む)の能力が低いことである(もちろんそうでない方も少なくはいるが)。その理由の大きな要素がそのトレーナー職に就く方法の問題である。そのほとんどが採用する側の知人である。選手は広く全国から選ばれた人である。がその選手の身体をみるトレーナーは狭い中から知り合いで紹介された人である。それらチームはトレーナーをもっと広く公募し、それも形だけでなくその中から公平に適任者を採用するべきであろうが、たぶん誰もが知らないうちにその職の人が決まっている。ほんとうに狭い世界の中だけでトレーナー職は決まってゆくのである。狭い世界というものは例えそのトップであってもレベルが低いのは周知の通りである。選手達は広く全国からのし上がり選ばれた者であるのに、その身体・体力担当のトレーナーは、知人からの紹介なので、その能力がつりあっていない。そこを変えなければトレーナーの能力は向上しない。やはりトレーナーを採用する立場の者がトレーナーを見る目を肥やすことが重要である。そのためにその知識や情報を増やし、選手を全国からスカウティングする、選手が全国から勝ちあがっていくのと同じように、1年以上かけて全国のトレーナー全てから選りすぐった者を採用するべきであろう。トップにでない、表にでない能力の高いトレーナーはたくさんいる。そしてそれを探せないチーム側。これはトップチームに限らず、どのようなトレーナーを採用する場合にしてもよく吟味研究してトレーナーを選ぶ目をもって採用してほしい。選手のためである。部分専門トレーナーが身体全体をみている現状を早く打破して、本当の能力を広く持つトレーナーを多くのチームが採用してほしい。

(上記文は隔月刊誌「セキュリティースポーツライフ」2003年1月発売に原田一志が執筆掲載したものです